多言語カフェ

多言語の海を泳ぐ

カエルで繋がるハンガリー語、トルコ語、ペルシャ語

イランのバムで2003年のクリスマス翌日に大地震があった。

両親を失った孤児が約2,000人、片親を失った孤児が5,000人。

私は年明けて節分を過ぎてから、崩壊したバムの町に行き、そういった孤児たち、だけではなく親のいる子どもたちにも折り紙を教えていた。

折り紙でいろいろ折ったうち、一番の人気はカエル。

カエルのお尻を押して離すとピョンと飛び跳ねるから折り終わって終わりではなく、しばらく遊べるところが人気の理由。

で、この「カエル」だが、ペルシャ語では、 

  قورباغه

敢えてカタカナで書くと、

  ゴルバーゲ

「ゴ」のところの発音が難しい。

聞きようによっては「グ」にも聞こえる。

専門的に書くと、喉の奥を閉じて発音する有声口蓋垂破裂音。

日本語の「グ」より少し奥で鳴らす独特の音。

まともに発音できないという自信が満々だから、できれば発音せずにすませたい。

カエルを折っている最中に、相手が「もしかして、カエル?」と聞いてくれたら「بله (バレ)=Yes」と言うだけで済む。

しかし、「何折ってるの? 何折ってるの?」とひたすら訊かれたら、腹をくくって「ゴルバーゲ」と言うしかない。

イランには約7ヶ月いたので、最初の頃に比べると帰国する直前には遥かにましな発音にはなっていたと思う。

でも最後まで、発音するのが苦手な単語だった。

イラン人は「遠慮」や「建前」という日本人に似た文化や感性があるので、大多数の人は私の下手な「ごるばーげ」を聞いても笑わない。

だから私も、辺り一面テントだらけの夜の砂地をヒゲモジャのイラン人と歩いていて「“月”は日本語で何て言うの?」と訊かれて「つき」と答えた直後に「ちゅき、ちゅき」と言いながら月を見ているのを見ても決して笑ってはいけないのであった。

そんな、日本人泣かせのペルシャ語「ゴルバーゲقورباغهカエル」だが、以前見たフランス語の「grenouille」と同じく、単語の中にカエルの鳴き声のオノマトペが入っている。

https://tagengo-cafe.hateblo.jp/entry/2026/07/10/005803

そして、いろんな言語を齧っていくうちに、トルコ語の「カエル」が「kurbağa(クルバア)」で、ペルシャ語にすごく似ていることに気がついた。

そこで、ハンガリー語も含めて、「カエル」の単語がどのようにこれらの3カ国にやってきたのかを調べてみた。

 

なぜ、ここでハンガリー語まで出てくるかというと、ハンガリー語の「béka(ベーカ)」も、トルコ語やペルシャ語のカエルと完全に同じ語源(大元の先祖が同じ)なのだ。

すべては古代の「チュルク祖語(トルコ系の古い祖先)」という一本の根っこから枝分かれして、現在の3つの言語に届いている。

 

すべての原点:チュルク祖語の *bāka古代のトルコ系民族の間で、カエルの鳴き声から *bāka(バーカ) という言葉が生まれる。

これがすべての始まりで、ここから3つのルートに分かれる。

 

① ハンガリー語ルート:最も古い形をキープ

ハンガリー人の祖先(マジャル人)は、9世紀末に現在のハンガリーの地に定住する前、中央アジアから東欧にかけての地域でトルコ系民族と長期間にわたり共存していた。

その際に、チュルク祖語の *bāka を直接取り入れたため、現代でも元の音に非常に近い béka という形で残っている。

 

② トルコ語ルート:別のオノマトペと合体

(チュルク系の)本家であるトルコ語の側では、時代が進むにつれて bāka の前に、鳴き声のオノマトペ(kur / gur = ゲコゲコ)がくっついた。

kur (ゲコゲコ) + baqa (カエル) = kïrbāka / kurbağa(この「ğ」は発音しない)

こうして「ゲコゲコ鳴くカエル」という意味のロングバージョンに進化した。

 

③ ペルシャ語ルート:進化版をさらに借用

中世にトルコ系民族の王朝がイラン地域を支配した際、ペルシャ語はトルコ語の進化版である kurbağa をそっくりそのまま借用した。

これが現在の 「قورباغهゴルバーゲ」で、私がイランで1日何十回も口にしていた言葉。

 

結論をまとめるとハンガリー語 (béka) は、トルコ系の古い言葉の「後ろ半分(baqa)」をそのまま残したもの。

トルコ語 (kurbağa) とペルシャ語 (qurbâġe) は、その言葉に「前半分(kur)」が追加されて進化したもの。

つまり、形は少し違って見えるが、すべて同じ「カエルの鳴き声」から生まれた一卵性の兄弟のような単語だ。

 

ちなみにこの折り紙のカエル、子どもたちが次から次へと、休憩している私を訪ねてきて作ってくれとせがむので、私は毎日50個とか100個とか作っていた。

しまいには歩きながらでも作れるようになった。

よく、有名人とかスポーツ選手が歩きながら色紙にサインしてるような、あんな感じ(内容はずいぶん違うが)。

 

最後にペルシャ語ミニミニ講座。

オッファリーン  آفرین

相手を褒めるときに使う言葉。

発音は聞こえ方によっては、「アファリーン」とも。

「よくやった!」「素晴らしい!」「ブラボー」「お見事」

主に子どもや目下の人が、何か良いことをしたときによく使われる、とされるが、私は幼稚園児や小学生にもよくこの言葉で褒めてもらっていた。

確かにこちらが可愛がってもらっているように感じることも多かった。

素晴らしきイランの子どもたち。

 ! آفرین  オッファリーン!